新型コロナウィルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相は4月11日、緊急事宣言の対象とした7都府県の全事業者に向けて、オフィス出勤者を最低7割削減するよう要請しました。あれから1カ月半以上が経過し、緊急事態宣言は全面解除され、産業界では「ポストコロナ」を見据えた、新たな働き方を模索する動きが広まっています。
これまでにも、政府の働き方改革の推進を背景に、在宅勤務についても関心を持つ企業は多くありました。ただ、生産性の低下や勤怠管理などの難しさが懸念され、本腰を入れるほどではありませんでした。しかし、新型コロナウィルス禍がきっかけとなり、在宅勤務への移行は避けては通れない選択肢の一つになりました。
そこで今回は、在宅勤務や、ほぼ同義のリモートワークやテレワークについて、どのような特徴があり、おすすめのサービスなどについて、詳しく解説します。
この記事の目次
リモートワークとは?
まずは、リモートワークの定義について、確認しておきましょう。
厚生労働省のサイトでは、「テレワーク総合ポータルサイト」※1というページを開設しています。それによると、テレワークを「情報通信技術(ICT=Information and Communication technology)を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。
テレワークは、「Tel(離れて)」と「Work(仕事)」を合わせた造語です。これは、リモートワークについても同様で、「Remote(離れて)」と「Work(仕事)」を組み合わせた言葉です。つまりは、本拠地であるオフィスから離れた場所で、ICTを活用して仕事をすることです。
リモートワークを働く場所で分離すると、自宅で勤務する「在宅勤務」、電車での移動中や出先など作業する「モバイル勤務」、あるいはオフィス以外の共有施設で働く「サテライトオフィス勤務」があります。
在宅勤務
昨今では、在宅勤務に前向きな企業も増えましたが、それでも週に1~2回、実施する程度でした。一日の一定時間だけ、在宅で勤務を行う「部分在宅勤務」を導入しているケースが一般的です。
例えば、子どもの送り迎えや役所への手続きなど、半日休暇や時間休暇をうまく組み合わせて、生活の利便性を向上させる効果がありました。また、明け方から海外の支社とWEB会議をして、年老いた親をデイサービスに送り出してから遅めに出社するなど、柔軟に働くことも可能になりました。
一部の利用に留まっていた在宅勤務ですが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐ観点から、全社員に適用する動きが加速していますが、何とも皮肉なものです。
モバイル勤務
モバイル勤務は、出張で移動中の交通機関や営業先、あるいはカフェや空港のラウンジ、ホテルなど、あらゆる場所を仕事場とする働き方です。
営業職であると、オフィスのデスクにいるよりも、クライアント先での営業活動や移動に費やす時間が多いため、すき間時間や待機時間を有効に利用して仕事ができます。また、直行・直帰制度を併用すれば、わざわざオフィスへ出勤する必要もないため、余った時間をプライベートに活用することも可能です。
リモートワークは、このモバイル勤務のようなイメージを持つ方は、多いのではないでしょうか。しかし、新型コロナウィルス禍による外出自粛ムードが強い現状では、活動範囲は自宅か、接触感染の可能性が低い公園などの屋外に限られるようです。
サテライトオフィス勤務
サテライトオフィス勤務とは、本拠地となるオフィスから離れた場所に設置された、部門ごとの共用オフィスで仕事をする施設利用型の就業形態です。サテライトオフィスには、専用型と共用型とがあります。
専用型は、自社専用で利用するサテライトオフィスです。色々な事情から、在宅で勤務できない人が、自宅近くのサテライトオフィスを利用したり、営業での出先や出張中に立ち寄って仕事をするなど、柔軟な働き方ができます。
一方、共用型は、社内専用ではなく、複数の個人事業主や企業が利用するオフィスを指します。「シェアオフィス」、または「コワーキングスペース」などと呼ばれています。当初は、起業家やフリーランスの利用が目立ちましたが、最近は企業がこれらのオフィス運営会社と契約し、自社の社員に使用させるパターンが増えています。
※1「テレワーク総合ポータルサイト」
https://telework.mhlw.go.jp/telework/about/
リモートワーク用ツールの種類
リモートワークを実践するには、本拠地となるオフィスと離れて仕事をするので、情報通信システムを活用する必要があります。前述した「テレワーク総合ポータルサイト」では、利用するICTツールを、以下の5つに分類しています。
リモートアクセスツール
リモートワークでは、本拠となるオフィスから離れた場所で作業を行うため、社内にあるデータやソフトウェアに外部からアクセスしなければなりません。月額の料金を支払って利用するツールであれば、初期費用を抑えることができるため、中小企業でも気軽に始めることが可能です。
・仮想デスクトップ方式
サーバ上にある個人用仮想デスクトップに、外部からアクセスして手元のパソコンで操作する方式です。セキュリティ面では安全に利用できますが、初期投資は高額になるため、初めてリモートワークに挑戦する中小企業には、ハードルが高いかもしれません。
・リモートデスクトップ方式
外部の手元パソコンから、認証サーバを経由して社内の自分専用パソコンより、データを転送して利用するシステムです。データのダウンロードはできないため、情報漏えいなどの危険性は低いシステムです。導入作業も簡単に行える上に、費用も安価であるので、中小企業には向いています。
・クラウドアプリ方式
業務に必要なデータを、すべてクラウド上に移行し、社内・社外を問わず、クラウドにアクセスして、手元のPCで操作する方法です。こちらも安全性は高く、費用も低く設定できるため、中小企業にはおすすめです。
・VPN方式
VPNとは、Virtual Private Network の頭文字を取ったもので、オフィスと自宅などの離れた場所を、仮想的な専用線でつなぎ、データ通信を実現する仕組みです。会社で使用しているLANにアクセスし、手元のパソコンで操作することができます。安価に利用できますが、データは手元のPCに残るため、セキュリティ面ではやや劣ります。
コミュニケーションツール
コミュニケーションツールとしては、WEB会議システム、チャット、Eメール、LINWEなどの情報共有ツールなどがあります。
WEB会議は、従来のテレビ会議のように専用機器を必要とせず、通常のモバイルパソコンで利用可能なソフトを活用します。これにより、遠隔で働く上で障害となりがちな、コミュニケーション不足を解消し、交通費や出張費などのコストを削減することができます。
WEB会議システムは、月々の利用料を支払って利用するタイプが一般的で、中小企業にも導入しやすいというメリットがあります。
労務管理システム
在宅勤務の導入を考えた時、経営者の脳裏に浮かぶのは、どうやって社員の勤務状況を管理するか、ではないでしょうか。そのような方には、「労務管理システム」の利用をおすすめします。
労務管理システムには、在宅で働く社員がパソコンのどの画面を見ていたか、チェックする機能があります。社員側からすれば監視されているようで、余りいい気持ちはしないでしょう。ただ、きちんと仕事をしていれば隠すことではなく、真面目に勤務している証拠を上司に見せることになるので、むしろ、従業員からも受け入れられているようです。システムの種類によっては、所用に立つ時には「離席中」と「着席中」のボタンを使い分けることができるので、管理者側は、着席している時間を集計して1日の労働時間を把握します。
現状では、勤務プロセスよりも、成果で評価する企業が多く、その方が企業の生産性を維持できると考えられています。在宅で業務に従事する場合、社員は勤務開始時にタスク項目を提出し、終業時に達成状況を報告するという形です。
ペーパーレス化ツール
リモートワークを遂行する上で、紙の情報に頼っていたのでは、業務の効率は悪くなってしまいます。情報をデータ化して、サーバに置いておけば、誰でも情報にアクセスすることが可能です。しかし、社内にある紙のドキュメントをすべてデータ化するのは、時間も手間もかかります。ですから、最初は使用頻度の高い文書を、電子文書化システムを使ってデータ化する方が良いでしょう。
安全なモバイルテレワークツール
外部の環境で、リモートワークを進める上では、モバイルPCの盗難や紛失は、常についてまわるリスクです。そうしたリスクに対処するために、セキュアブラウザやセキュアコンテナなどのツールを活用する方法があります。
セキュアブラウザとは、データをパソコンの安全な領域のみで表示し、作業が終了したら自動的に消去する仕組みです。クラウドを利用することで、社内のネットワークにアクセスしても、情報漏えいを回避することができます。
これに対して、セキュアコンテナは、パソコン上に「コンテナ」という暗号化した領域を作成するシステムです。個人利用の端末とは切り離して、業務用アプリやグループウェアを安全に使用することが可能です。万一、パソコンを紛失したとしても、遠隔操作でデータを消去することができます。
おすすめのテレワーク導入支援プログラム
一般社団法人日本テレワーク協会※2では、新型コロナウィルス感染症対策の一環として、「テレワーク緊急導入支援」を行っています。同団体サイトにて、新たに在宅勤務に移行する企業向けに、おすすめの支援サービスを紹介しています。
※2一般社団法人日本テレワーク協会
シスコシステムズ
WEB会議システム「Cisco Webex Meeting」を、90日間無償で試用できるプログラムです。「Webex Meeting」は、パソコンやスマートフォン、タブレットなど、色々なデバイスを介して、離れた場所からでも会議を行うことができるクラウドサービスです。申し込むライセンス数に制限はなく、会議の模様は録画可能なほか、データはWebexのクラウドに保存され、MP4方式でのダウンロードが可能です。
https://www.cisco.com/c/m/ja_jp/solutions/collaboration/webex90days.html
axio(アクシオ)
VPNや専用端末、サーバ環境を必要とせず、安全性の高いリモートワーク環境を、最短5日でで実現する「Solution SecureDesktop」を提供しています。
https://www.axio.co.jp/lp/ssd/
レノボ・ジャパン
全社規模でテレワークを実施する企業向けに、「はじめようテレワークスタートガイド」を発行し、無料ダウンロードを開始しました。同ガイドでは、テレワーク導入時のメリットとリスク、労働基準法を順守する上での注意点などについてまとめられています。加えて、テレワークにおける勤務制度、パソコン操作上のセキュリティ対策、オンライン会議の進め方、コミュニケーション円滑化のルールなど、初めて全社規模でテレワークに取り組む企業には最適な内容になっています。
https://www.lenovojp.com/business/solution/download/002/pdf/terework_startguide.pdf
IMACREA(イマクリエ)
テレワークを初めて導入する企業向けに、個人情報の管理方法や企業機密の漏えい防止法、新システム・アプリの有無の確認、遠隔でのコミュニケーション手段、業務の共有・管理方法について、的確なアドバイスを行います。
コニカミノルタジャパン
すぐにテレワーク環境を実現したい企業を対象に、手持ちのパソコンやスマートフォン、タブレットから、会社のPCを簡単に操作できる「IT-Guardians ITサポートサービス」を提供しています。
https://www.konicaminolta.jp/business/service/it-guardians/it_support/index.html
まとめ:自社に最適なテレワーク環境を
新型コロナウィルスの感染拡大を受け、企業はリモートワークやテレワークへの早急な対応を迫られています。導入システムやツール、勤怠管理やセキュリティ面など、クリアしなければならない課題は多くあります。今回は、リモートワークがどのようなものであるかを改めて確認し、初めてテレワークの導入に踏み切る企業向けに、おすすめのサービスについてご紹介しました。自社に最適な在宅勤務の環境を整え、一日でも早く業績の回復に努めてください。